2022-07-20

Web3は20世紀の共産主義と重なる

昨今の Web2.0 に対するアンチテーゼとして主張される Web3 ムーブメントは、20世紀における資本主義と共産主義のそれに酷似している。GAFA をはじめとする Big IT(=資本家)によって支配された情報社会を、ユーザ(=労働者)が団結してコミュニティを形成して社会構造を塗り替えよう、という構図である。

共産主義がマルクス・エンゲルスの『共産党宣言』を発端として広がったように、Web3 がサトシ・ナカモトの論文『ビットコイン: P2P電子通貨システム』で提唱されたブロックチェーン技術を基盤としている点もよく似ている。そもそも英語で共産主義を意味する「コミュニズム」の語源はコミュニティ(共同体)であり、Web3 が「ユーザを中心とした民主主義的コミュニティの形成」を謳っている点でも通ずるものがある。一部の人がある種カルト的な信者と化している点も本当にそっくりだと思ってしまう。

一方で、Web3 で主張される「民主主義」それから「透明性」という言葉には疑ってかかる必要がある。彼らによれば、コミュニティへの参加は人種・身分・年齢に関わらず誰でも可能で、そのうえ取引をはじめとする全ての行動履歴がブロックチェーン上に刻まれるため、極めてオープンかつクリーンな組織が実現できるらしい。これは確かに文章としては正しくて、AさんがBさんに1ドル送金したとか、BさんからCさんにXXの所有権を譲渡したとか、様々なアクションが全て記録に残る。しかし、残念ながらブロックチェーンの根底をなす要素の一つは「匿名性」である。Aさん・Bさん・Cさんというユーザはあくまで英数字で表されるアドレスに過ぎず、現実世界におけるどこの誰なのかというのは一切分からない(というか分かってしまうようだと困る)。つまるところ、Aさん・Bさん・Cさんは現実世界では同一人物で、全ての行動が自作自演である可能性も全然あり得るということになる。これでは民主主義もへったくれもない。投票で一人一票が保証されず、特定の人々が多くの票を持ってしまう状況では、資本主義を支える株式および株主総会と何ら相違がなくなってしまう。

となると、やはり何らかの形でコミュニティの運営やユーザの管理を行うスキーマが必要になってくる。共産党中央委員会の誕生である。ここまでくると終着点の見当が付いてきて、管理組織の腐敗が進行してコミュニティが崩壊するか、事実上の独裁体制になるかのどちらかである。(独裁体制というのは、現在の Big IT によって寡占された情報社会と結果変わらないといえる。)

では、結果として Web3 が現在の情報社会を塗り替えることは無く夢物語で終わるのかというと、そういうわけでも無いように思う。20世紀の資本主義国でも共産主義ブームが巻き起こり、マルクス研究が隆盛し、その考え方を取り入れた左派政党が台頭したように Web2.0 と Web3 を折衷した言わば Web 2.5(もしくは Web5.0?)的なムーブメントが今後増えてくると考えるのが最も自然かつ現実的な落とし所になるだろう。EU における GDPR および DSA(デジタルサービス法)の施行や、それに伴う Yahoo の EU 撤退などもこの潮流の一環として捉えてみるとしっくりくる。

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と、ここまで自分の薄っぺらい知識で意見を述べてみたものの、ブロックチェーンやスマートコントラクトに関する勉強はまだまだ不足しているので、Web3 の熱狂的ブームとは距離を置きつつインプットをしっかり続けていく所存です。

ちなみに Web3 の文脈で言うとこの個人ブログは Web1.0 に相当します。ここは自分の庭なので僕が何を書こうと自由ですが、意見・感想があればぜひツイッターまでお願いします。